先日、「自治体・公共Week」という展示会に登壇してきました。今号は、その会場でいただいた一つの質問をきっかけに考えたことを、現場の手触りのまま共有させてください。
展示会で、AIエージェントの話をしてきました

テーマはClaudeのAIエージェントについて。ファイルを読み、考え、手を動かしてくれる存在を、実際の業務にどう組み込むのか――そんな話をひととおりお伝えしました。会場には行政・自治体のお仕事に関わる方が多く、反応も具体的で、登壇していて手応えのある回でした。
「他社と似てしまうのでは?」という質問
登壇後、聴講者の方から質問をいただきました。行政の公募プロポーザル案件に対して、AIエージェントで企画書・提案書を作ることを考えている、という方です。質問の趣旨はこうでした。
「公募内容をAIに読み込ませて提案書を作ると、 他社も同じことをした場合、 内容が似てしまうのではないか」
とても本質を突いた問いだと思いました。同じ募集要項を、同じようなAIに読ませれば、出てくるものは横並びになるのではないか――これは多くの方が漠然と感じている不安だと思います。
私がその場でお答えしたこと
私はこうお答えしました。AIエージェントに入力できるのは、公募要項だけではありません。自社の強み、これまでの実績、蓄積してきたノウハウ、どう見せるかという提案の戦略、そして論理の展開の仕方――こうしたものを併せて渡すことができます。
公募要項という共通の部分はもちろん残ります。しかし、仮に同業他社が同じAIエージェントを使っていても、入れる自社のリソースも、実績も、指示の出し方も、論理の組み立て方も違う。だから出てくる提案は大きく異なり、それぞれに独自のものになります――そうお伝えしました。
裏を返せば、AIエージェントが各社に普及した状態になったとき、自社はどこで強みや特徴を出すのか――その問いを自分たちで持っておくことが、これからますます重要になる。会場でそう話しながら、私自身も改めてそう感じていました。
ここからが、今日の本題です
この質疑をきっかけに、もう一歩踏み込んで考えたいことがあります。それは、「作る時間」が圧縮された先に、私たちは何に時間を使うのかという問いです。
提案書づくりを思い浮かべてください。これまでは、要項を読み解き、構成を考え、文章に起こし、体裁を整える――この一連の「作る作業」に、多くの時間が吸い込まれていました。締切前夜、内容そのものより「仕上げる」ことに追われた経験は、誰にでもあると思います。
AIエージェントは、この「作る作業」を大幅に短くします。下書きは数分で出てくる。体裁もすぐ整う。ここで多くの人が「速くなった、便利だ」で止まってしまうのですが、本当に問われるのはその先です。
AIが奪うのは「作る時間」。 空いたその時間を、 何に充てるかが勝負を分ける。
空いた時間を、「考える時間」に戻す
さきほどの公募の話に戻ると、他社と差がつくのは「作る作業」ではなく、その手前にある考える作業のほうでした。具体的には、次のようなところです。
- 戦略:この案件で、自社は何を強みとして打ち出すのか
- 差別化:他社が言わないこと、自社にしか言えないことは何か
- 顧客理解:その自治体が本当に困っていること、評価者が見ている点は何か
- 論理:その強みを、どういう筋道で納得につなげるか
これまでは、ここをじっくり考えたくても、「作る作業」に時間を奪われて、考えきれないまま提出することが少なくありませんでした。皮肉なことに、最も差がつくはずの工程に、いちばん時間を割けていなかったわけです。
AIエージェントで「作る時間」が空くということは、その時間を、本来いちばん考えるべきだった工程に返せるということです。空いた分をそのまま余白にするのか、戦略と顧客理解に充て直すのか。ここで差がつきます。
明日からできる、小さな問い直し
大がかりな仕組みを入れる前に、できることがあります。いま手元の資料作成業務を一つ思い浮かべて、「作る時間」と「考える時間」に分けてみること。そのうえで、AIに任せられる「作る」部分を一つだけ渡してみて、空いた時間を意識して「考える」に戻してみる。それだけで、見える景色が変わってきます。
AIエージェントが当たり前になる時代に、各社の違いを生むのは、結局のところ空いた時間で何を考えたかなのだと思います。展示会の質問に答えながら、私自身が一番持ち帰りたくなったのは、この点でした。みなさんのお仕事でも、ぜひ一度「作る/考える」を分けてみてください。