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“それっぽい”の先で、専門家の役割が変わる

Vol.014・2026.05.25 配信

Vol.014 “それっぽい”の先で、専門家の役割が変わる

先日、八尾商工会議所で、中小企業の方々を対象に「中小企業で始めるAI活用」をテーマにお話ししてきました。今号は、登壇後にお声がけくださった一人の方との会話から考えたことを、現場の手触りのまま共有させてください。

八尾商工会議所で、AI活用の話をしてきました

会場は中小企業の経営者の方が中心。生成AIで「何ができるのか」「どこから始めればよいか」を、商品開発の場面を念頭に置きながら具体例を交えてお話ししました。質疑も活発で、現場の手触りのある一日でした。

名刺の和柄から始まった、「本物」の話

講演後の名刺交換の列に、和柄が美しく描かれた名刺を持つ方がいらっしゃいました。聞けば、知り合いの職人さんにデザインしてもらったとのこと。なるほど、と腑に落ちました。和柄の一つ一つに歴史と意味があり、それを引き受けて手を動かす職人がいる。だからこの一枚は、ただ綺麗なだけではない佇まいをまとっているのだと。

本物には、それを本物たらしめる「意味」と「担い手」が必ずある――話しながら、お互いそう確認するように頷いていました。

「それっぽい」を量産できる時代

ここから、自然と生成AIの話になっていきました。生成AIに「和柄風のデザインを作って」と指示すれば、すぐにそれらしい画像が出てきます。模様としては成立している。パッと見、悪くない。

けれど、そこに込められた意味、なぜその模様が選ばれたのか、どんな背景があるのか――そういった物語までを理解して描いているわけではありません。さらに言えば、よく見ると文様そのものが正しく描けていないことも珍しくありません。意味どころか、形すら写しきれていないことがある。専門の方から見れば、「まだまだ」というのが正直なところだと思います。

そしてこれは、和柄に限った話ではありません。法律、医療、財務、設計、教育――どの分野でも「専門家から見るとまだまだ」というレベルのアウトプットを、生成AIは涼しい顔で出してきます。

受け手に届けば、それでいいのか

一方で、ビジネスの世界にはこんな本音があります。

「専門家にとっての正しさ」よりも、 「受け手に受け入れられるかどうか」が大事。

これは間違いと切り捨てられない一つの現実です。発注者・読者・買い手に「いいですね」と感じてもらえれば、それで成立する仕事も多くあります。

生成AIはまさに、この「受け手に受け入れられそうな水準のもの」を爆速で量産する道具です。だからこそ、もともとあった「専門家の正しさ」と「受け手の納得」のジレンマが、生成AIの登場によってさらに前景化してきた――私はそう感じています。

「嘘を嘘と見抜く」が、ビジネスの基礎能力になる

2ちゃんねる創設者のひろゆき氏が、初期のインタビューでこう語っていました。

「うそはうそであると見抜ける人でないと、 (掲示板を使うのは)難しい」

情報の真偽が入り混じる場所では、それを見抜けない人は使いこなせない――インターネット黎明期の名言です。

生成AIが当たり前になった今、この言葉は掲示板の枠を越えて、あらゆる仕事の現場に拡張されると感じます。それっぽい契約書、それっぽい設計書、それっぽい企画書、それっぽいデザイン――「それっぽい」を「本物」と区別できる目を持っているかどうかが、これからのビジネスパーソンの基礎能力になります。

専門家の役割は、むしろ再定義される

よく「AIで専門家は不要になる」と言われます。私はむしろ逆だと考えています。AIが「それっぽいもの」を量産するからこそ、「本物の意味」を知っている専門家の存在意義が、これまで以上に大きくなる。

  • 出てきたアウトプットの「どこが本物で、どこが偽物か」を見抜く役
  • なぜそうなっているかを「意味」と「背景」から説明できる役
  • 最後に判断のハンドルを握り、責任を持って世に出す役

これからの専門家は、「作る人」から「見抜く人・翻訳する人・責任を持つ人」へ、静かに役割を変えていくのだと思います。

「本物の知識」を、これからも発信していきます

私たち知財事業研究所も、生成AIの便利さを伝えるだけでなく、その限界と本質もあわせてお届けしていきたい。「それっぽい話」ではなく、「本物の知識」を発信できる存在でありたい――和柄の名刺をくださった方との会話の余韻のなかで、改めてそう思った夕方でした。

みなさんのお仕事でも、生成AIが出した「それっぽいもの」を眺める瞬間がきっとあります。そのとき一度、「これは本物か、それっぽいだけか」と問い直してみてください。問い直せること自体が、もう立派な専門性のはじまりです。

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